ワセダクロニクルは、早稲田大学ジャーナリズム研究所(所長:花田達朗)のもとに作られた非営利の調査報道メディア。
その最初の記事を以下紹介します。 リンク
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あなたの命にかかわる医薬品の新聞記事が、カネで買われた記事だったとしたらどうしますか?
それが実際に起きていた、しかも何年も前からーー。
私たちがそんな疑いを持ったのは2016年の3月のことだった。

脳梗塞(こうそく)の予防に使う「抗凝固薬(こう・ぎょうこやく)」の記事をめぐり55万円のカネが動いていたことを示す資料を入手したのが始まりだった。資料を見ると、カネを払っていたのは、製薬会社の仕事を請け負った最大手の広告代理店、電通のグループ会社。カネをもらっていたのは、全国の地方紙に記事を配信する共同通信のグループ会社だ。

抗凝固薬は血を固まりにくくする薬だ。効果が高い半面、患者によっては脳内で出血する。因果関係は不明なものの、現場の医師らから数百件の死亡事例が公的機関に報告されている。製薬会社自身も「重篤な出血の場合には死亡にいたるおそれがある」と警告している。
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共同通信が配信した記事は地方紙[注1]に掲載された。「広告」や「PR」などの明記はどこにもない。ごく普通の記事の体裁だった。
電通側で関わっていたのは、電通[注2]と、100%子会社の電通パブリックリレーションズ[注3](電通PR)。
共同通信側では、記事を配信した報道機関の一般社団法人共同通信社[注4](社団共同)と、100%子会社[注5]の株式会社共同通信社[注6](KK共同)だ。

取材に対し、電通PRの当時の担当者はこのカネが「記事配信の成功報酬だった」[注7]と認めた。記事を書いた社団共同の編集委員[注8]も「営業案件であるとの認識はあった」[注9]と語り、記事にカネがからんでいるとの認識があったことを認めた。

抗凝固薬だけではない。内部資料や関係者の証言によると、医薬品の記事の見返りにカネが支払われるという関係は、電通側と共同通信側の間で少なくとも2005年から続いていた。私たちが入手した電通側の内部資料にその記録があった。KK共同の医療情報センター長は「うしろめたい気持ちはあった」[注10]といっている。

命にかかわる薬の記事をめぐってカネが動いていた。
記事がカネで買われていたことにならないのだろうか。
人の命をどう考えるのかーー。広告とは、PRの仕事とは何か。そして、ジャーナリズムとは。
このシリーズを通じ、患者やその家族の皆さんと一緒にこの問いを考えていきたい。

問題の記事は、2013年の6月から7月にかけて、社団共同が配信した抗凝固薬の記事だ。次の8紙[注11]の朝刊に掲載された。
秋田魁新報
 下野新聞
 静岡新聞
 佐賀新聞
 長崎新聞
 宮崎日日新聞
 沖縄タイムス
琉球新報

見出しや記事の大きさは差があったが、社団共同から配信された同一の記事を使っているので、内容は同じだ。大筋は以下の通りだ。
(1) これまでの抗凝固薬には不満が多い。
(2) そのため、年約3万人の患者が薬の服用を中止してしまっている。
(3) 服薬は生涯続ける必要がある。
(4) 最近は1日1回の服用で済む薬剤も登場した――。

全文を引用しよう。

「脳梗塞の予防に抗凝固薬の服用が欠かせないのに、抗凝固薬に対する不満が多く、年に3万3千人が服用を中止している――。こんな実態が、健康日本21推進フォーラム(理事長・高久史麿東京大名誉教授)が実施した調査で明らかになった。

同フォーラムは脳梗塞の中でも重症化しやすい心原性脳塞栓(そくせん)症に注目し、日本医療データセンターが持つ87万余りのレセプトデータを分析。データから推計した結果、脳梗塞の原因になりやすい心房細動などの患者が日本全体で130万人おり、うち75万人余りに抗凝固薬が処方されていることが分かった。

心原性脳塞栓症は、心房細動によってできた血栓が脳に飛び、脳血管を詰まらせてしまう疾患。

さらに一昨年1~9月の間に受診したデータから抗凝固薬の服用中止率を推計したところ、1年間に4.3%に達し、服用を中止したままの患者が3万3千人近くに上ることが明らかになった。

また服用中止者を対象に調べた結果、(1)中止者の2人に1人が薬に不満 (2)中止者の8割強が脳梗塞発症の危険性を軽視している-ーことも判明した。

日本脳卒中協会[注12]の山口武典理事長[注13]は『心原性脳塞栓症は非常にリスクの高い疾患で、約6割に重度障害が残り、発症から10年以内に4人のうち3人が再発する。予防には抗凝固薬服用を生涯続ける必要がある。最近は1日1回の服用で済む薬剤も登場し選択肢が増えている』と話している」

この記事に出てくる心房細動[注14]とは、心臓の一部が細かく振動し、うまく血液を押し出すことができなくなる病気だ。心臓内にできた血液の塊(血栓)がはがれて脳に流れると、脳の血管をふさいで脳梗塞を引き起こす。

問題の記事が掲載された下野新聞2013年6月3日付朝刊の紙面 
目的は「抗凝固薬広報支援」

この記事配信の見返りに、電通PRからKK共同通信に55万円のカネが支払われたことが内部資料と関係者の証言から分かっている。私たちの手元にある電通側の内部資料には、こう記載されている。


「支払い内容」→「抗凝固薬広報支援」
 「経費の日付」→「2013年6月」
 「クライアント」→「バイエル薬品」
 「支払先」→「(株)共同通信」
 「支払額」→「55万円」
 「経費の種類」→「媒体費」
=つづく



 志水満