MRIC by 医療ガバナンス学会より引き続き引用です
リンク

●製薬会社と医者は「win-win関係」
大多数の医者は真面目にやっている、と医療関係者のなかからも反論が出てくるかもしれないが、利益供与を受けることで人間が無意識のうちにだとしても影響を受けてしまうことは、否定できない。学力テストの偏差値が高い医者であっても、決してその例外ではない。
実際に、利益相反関係の有無が処方内容や臨床研究の結果に影響を与えるとする医学論文が、いくつも報告されている。
製薬業界は他業種に比べ利益率が高く、数十パーセントにおよぶこともある。その潤沢な利益の一部が医者への宣伝活動に回り、高額な薬が数多く処方され、また製薬会社がもうける。その仕組みを維持するために、宣伝費が上乗せされた高い薬価がつけられるという、医療業界にとっては好循環サイクルが形成されている。
事実、医薬品産業は他業種に比べて宣伝費・営業費用等の比率が倍以上におよび、著しい高コスト構造にあることが指摘されている(2019年4月、財務省主計局分科会資料より)。
にほんブログ村 政治ブログ 世直し・社会変革へ
このような薬のカラクリについて、医療業界内でも表立っての議論はあまりされてこなかった。業界内のエスタブリッシュメントにとっては、「不都合な真実」となるからだ。一般社会の通念とは異なる、浮き世離れした宣伝活動が業界内で常態化していても、誰も疑問を呈さず口にも出さない。
当然ながら製薬会社も営利企業であり、薬を効果的に宣伝し効率的に売ることで、できる限りの利潤を上げなければならない。資本主義社会の中では正当な企業活動の一環で、製薬会社も医者もwin-winの関係なのだから、それの何が悪いのか、という意見が業界内で大多数を占めていることは、私も十分承知している。

●「ディオバン」不正事件で感じた空恐ろしさ
以前は、私もそのように思う業界人の1人に過ぎなかった。しかし、問題の深刻さを思い知らされる転機があった。
それは、2012年ごろから問題になり始め、社会的にも大きく取り上げられた「高血圧薬ディオバン」の臨床研究不正事件だ。

ほぼ同じ時期に、細胞やネズミをあつかう基礎研究の分野で「STAP細胞事件」も持ち上がり、マスメディアでセンセーショナルに取り上げられたことから、一般の方々の間ではむしろこちらの方を研究不正事件としてより印象深くご記憶の方が多いのではないだろうか。
しかし、患者や社会への実害という点では、臨床現場で実際に用いられる医薬品にかかわる臨床研究不正事件の方が、より深刻な問題なのだ。
当該の高血圧薬では実際以上に有効性が高いと見せかけられ、必要以上に高価な薬が累計で1兆円以上も売り上げられた。紆余曲折はあったものの、最終的には不正が認定され、関係する医学論文が国際専門誌からすべて取り下げられた。
私はこの事件の初期段階から興味を持ち経過を追っていたが、製薬会社と医者がwin-winの関係を構築していても、それが密室で進められ歯止めが効かなくなると、ここまで暴走してしまい社会的被害をもたらすのかと、空恐ろしさすら感じることになった。
この事件を受けて、臨床研究法という新たな法律が2018年から導入された。研究方法のルールを厳格化して、同様の事件の再発を防ぐのがその狙いだ。
しかし、そもそもの不正が起こった本質的な原因は、「医者とカネ」、製薬マネーの問題にある。利潤を上げるためには手段を選ばない、どう猛な資本主義の精神が根本にあるのだ。この本質的な課題についての取り組みは、日本ではいまだ不十分と私は感じていた。
中略
・医者と製薬会社の利益相反関係は、すべて無くして禁止してしまえばいい、というような単純なものではない。医学、医療を発展させ、病に苦しむ患者のために適切に薬を提供し続けるためには、両者の健全な関係は不可欠だからだ。
しかしながら、製薬会社の豊富な宣伝費用の出所の多くは、国民皆保険制度を持つ日本では保険料や税金である。いわば、医者は薬を介して公的なお金の使い道について決めているわけだ。公共事業にかかわる政治家の立場と何ら変わらない。医療は聖域だからと野放しのままでは、今後も高血圧薬の臨床研究不正事件のように暴走する危険性は否定できない。また、ルール違反として問題になるのは氷山の一角に過ぎず、そのウラには大多数の道義的にスレスレの事案が多数埋もれていることも指摘しておきたい。
 閉じられた医療業界の内輪だけでなく、1人でも多くの一般の方々にこの問題について知っていただくことが拙著の目的だ。
引用終わり



惻隠之心